「見てみろよ。」
コンクリートの隙間を見上げて、家康は笑った。
「あれは月のお化けなんだ。」
雲一つ無い真昼の空の片隅にぼんやりと白い月。
「随分間抜けだろう?」
言いながら振り上げた拳は鳩尾に突き刺さり、三成の痩躯は校舎の壁に叩き付けられた。
腸の奥からこみ上げるものを堪えきれずその場に嘔吐する。
登校して早々、弁当箱の中身を机の上にぶちまけられたせいで昼はほとんど物を食べていない。
そのおかげで吐瀉物のほとんどは黄色味がかった胃液だけだったが、その饐えた匂いに露骨に眉をしかめて、家康はうなだれたままの三成の髪をつかんで顔を仰向かせた。
「まるで、お前みたいだ。」
--なぁ、三成?
名を呼ぶ声は、その声だけは、初めて彼に出逢った時の澄んだ響きのままであったので、三成はふいにこの学校にやって来た日のことを思い出す。
黒板の前に立たされて見知らぬ大勢の人間達の前で自分の名前が読み上げられる様を、彼は教科書の中に見た大陸の奴隷市場のように感じたのだが、いま考えてみれば彼を取り囲んでいたそれは確かに新しい獲物を品定めする目に違いは無かったのだ。
「では、席につきなさい。」
老いた教師に促され、無表情の下にひた隠された好奇心の中を歩んで与えられた席につく。
誰もが無言で様子を伺うなかで、一番先に獲物に手を付ける権利に名乗りを上げたのは隣の席の少年だった。
「教科書まだもらってないだろう?
わしのを一緒に見よう。」
溢れんばかりの笑顔と共に差し出された教科書の片隅には、黒いポールペンでこう書いてあった。
『ようこそ、世界の果てへ』
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うわぁ!中ニっぽい!!
いいの!リアル中ニだから!!
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